2025年4月から、原則すべての新築住宅に省エネ基準への適合が義務づけられました。ただし「基準に届かないから家が建てられない」という事態は、制度上ほぼ起こりません。
実際に変わったのは「建てられるかどうか」ではなく、審査の対象と所要日数です。木造2階建ては審査省略の対象から外れ、行政審査の法定期間は7日以内から35日以内になりました。
一方で、10平方メートル以下の建築や仮設建築物、車庫などは適合義務そのものの対象外です。この記事では国土交通省の一次情報だけを使い、「対象外になる線」と「審査が省略される線」を分けて整理します。
この記事の要点
- 適合義務の対象は新築と増改築。修繕・模様替え(いわゆるリフォーム)は対象外
- 床面積10平方メートル以下の新築・増改築は適合義務そのものの対象外
- 車庫・駐輪場・畜舎・常温倉庫など、空調を要しない用途は従来どおり適用除外
- 応急仮設建築物、国宝・重要文化財、伝統的建造物群の建築物も適用除外
- 気候風土適応住宅は外皮基準だけ適用除外(一次エネルギー基準は適用)
- 平屋かつ200平方メートル以下(新3号)は省エネ適判が不要。ただし基準への適合は必要
- 判定の基準日は確認申請日ではなく着工日(2025年4月1日以降の着工)
結論:制度上「建てられなくなる家」は原則ない
建築物省エネ法の改正で、2025年4月1日以降に工事へ着手する建築物は、原則としてすべて省エネ基準への適合が求められるようになりました。国土交通省は改正の概要を「基準適合義務の対象が、小規模非住宅、住宅にも拡大されます」と説明しています。
ここで多くの施主が心配するのが「うちの土地・予算では基準に届かず、家が建てられなくなるのでは」という点です。しかし、義務づけられた省エネ基準は断熱等性能等級4・一次エネルギー消費量等級4に相当する水準で、2016年に告示された基準がそのまま使われています。等級6や等級7のような高い水準が求められているわけではありません。
さらに、計算をしなくても適合を確認できる「仕様基準」が用意されています。断熱材の熱抵抗値や窓の熱貫流率を表と照合するだけで済むため、省エネ計算のできる設計者がいない場合でも対応できます。国土交通省のQ&Aでも「規模にかかわらず仕様基準を用いる場合は、省エネ適判手続きを要しない」と明記されています。
つまり「建てられない」のではなく、設計者が省エネの図書を作り、審査機関がそれを確認する工程が必ず1本増えたというのが実態です。影響が出るのは可否ではなく、工期と費用の側にあります。
適用除外になるのはこの6類型
「省エネ基準に適合しなくてよい建築物」は、国土交通省の改正建築物省エネ法オンライン講座のQ&Aと、行政庁が公表する改正案内で確認できます。整理すると次の6類型です。
| 類型 | 具体例 | 除外の範囲 |
|---|---|---|
| 1. 10平方メートル以下 | 物置、小規模な離れ、10平方メートル以下の増築 | 全部(適合義務なし) |
| 2. 空調を要しない用途 | 自動車車庫、自転車駐輪場、畜舎、堆肥舎、常温倉庫、公共用歩廊 | 全部 |
| 3. 高い開放性のある用途 | 観覧場、スケート場、水泳場、神社、寺院(壁を有しないもの等) | 全部 |
| 4. 歴史的建造物 | 国宝・重要文化財、伝統的建造物群を構成する建築物、景観重要建造物 | 全部 |
| 5. 仮設建築物 | 応急仮設建築物(工事完了後3か月以内)、許可を受けた販売モデルルーム | 全部 |
| 6. 気候風土適応住宅 | かやぶき屋根、面戸板現し、せがい造りなどの伝統的構法 | 外皮基準のみ除外(一次エネルギー基準は適用) |
出典:国土交通省 改正建築物省エネ法オンライン講座 Q&A、長野市「建築基準法・建築物省エネ法の改正」(2026年3月25日更新)
注意したいのは6番目の気候風土適応住宅です。土壁や真壁など、断熱材を入れると構法が成立しない住宅を想定した措置で、外皮基準は恒久的に適用除外となる一方、一次エネルギー消費量基準への適合は必要です。Q&Aでも「気候風土適応住宅も適合義務の対象となりますが、外皮基準については適用除外となります」と回答されています。伝統構法で建てたい場合でも、設備側で基準を満たす道が残されている形です。
もう一点、系統電力につながないオフグリッド住宅も対象外にはなりません。Q&Aは「系統電力の接続の有無は問わず、床面積10平方メートルを超える建築物については、適合義務の対象となる」としています。
自分の工事が対象かを4つの質問で判定する
適合義務の対象は新築と増改築だけです。国土交通省のQ&Aは「適合義務の対象は新築・増改築であり、修繕・模様替えといったいわゆる改修・リフォームは対象外です」と明言しており、大規模の修繕・模様替えも対象外とされています。エアコンや給湯器の入れ替えだけの工事も同様に対象外です。
判定フロー:国土交通省Q&Aの記述をもとに作成
増築の扱いは改正で緩くなった部分です。改正前は増築後の建築物全体が基準の対象でしたが、改正後は増改築を行う部分だけが対象になりました。国土交通省は、全体を対象にしたままだと「増改築そのものを停滞させるおそれがある」ため見直したと説明しています。既存部分の壁をすべて断熱改修しなければ増築できない、という事態は避けられます。
ただし減築と増築を同時に行う場合は注意が必要です。Q&Aは「減築と増築を同時に行った場合においても、床面積10平方メートルを超える増築を行った場合は、適合義務の対象となる」としています。差し引きで床面積が増えなければ対象外、とはなりません。
基準日が確認申請日ではなく着工日である点も重要です。ここでいう着工とは「杭打ち工事」「地盤改良工事」「山留め工事」「根切り工事」のいずれかが始まった時点を指します。着工日による線引きの詳細は省エネ基準適合義務化の対象は「着工日」で決まるで扱っています。
実際に変わったのは「審査」——新2号と新3号の分かれ目
省エネ基準の義務化と同じ2025年4月1日、建築基準法のいわゆる4号特例も見直されました。これまで建築士が設計した木造2階建てなどは構造審査が省略されていましたが、審査省略を受けられる範囲が新3号建築物に限定されています。
長野市の案内によれば、新3号に当たるのは「平屋建て」かつ「延べ面積が200平方メートル以下」の建築物だけです。2階建てであれば延べ面積にかかわらず新2号、平屋でも200平方メートルを超えれば新2号になります。一般的な木造2階建ての注文住宅は、ほぼすべてが新2号に入ります。
新2号建築物
2階建て(面積不問)/平屋で200平方メートル超
- 審査省略なし(構造・採光・省エネをすべて審査)
- 省エネ適判または確認申請への省エネ図書添付が必要
- 都市計画区域外でも建築確認が必要
- 大規模な修繕・模様替えでも建築確認が必要
- 完了検査に合格しないと使用できない
- 行政審査の法定期間は35日以内
新3号建築物
平屋かつ200平方メートル以下
- 従来どおり審査省略(4号特例)が使える
- 省エネ適判は不要
- ただし省エネ基準への適合義務はある
- 都市計画区域外で平屋200平方メートル以下なら建築確認・検査も省略
- 行政審査の法定期間は7日以内
ここが「建てられなくなる」という誤解が生まれやすいところです。新3号は審査が省略されるだけで、基準を守らなくてよいわけではありません。国土交通省のQ&Aも「建築確認の審査省略となる新3号も省エネ適判が必要なのか」という問いに対し「不要です。なお、省エネ基準への適合は必要であることにご留意ください」と答えています。
施主にとって体感差が大きいのは審査期間です。行政審査の法定期間は、新2号に該当すると7日以内から35日以内へ、日数にして5倍に延びました。しかも図書の補正にかかる期間はこの法定期間に算入されないため、実際にはさらに上乗せされます。
出典:長野市「建築基準法・建築物省エネ法の改正(令和7年4月1日施行)」
あわせて確認申請の添付図書も増えました。新2号では構造関係規定や採光規定を示す図書に加えて、省エネの仕様を示す図面または省エネ適合性判定の通知書が必要になります。手数料も2025年4月1日の申請受付分から改定されており、確認申請と省エネ適判の両方で費用が発生します。
省エネ適判を省略できる3つのルート
省エネ適合性判定(省エネ適判)は、確認申請とは別の手続きです。ただし住宅の場合、次の3つのいずれかに当てはまれば省エネ適判そのものを省略でき、確認申請の審査の中で省エネ基準への適合を確認する形になります。工期と費用を抑えたい施主にとって、事前に把握しておく価値のある選択肢です。
| ルート | 内容 | 施主側のメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 仕様基準 | 断熱材の熱抵抗値や窓の熱貫流率を告示の表と照合して評価する | 省エネ計算が不要。ただし床暖房やコージェネレーション設備を入れると使えない |
| 設計住宅性能評価 | 住宅性能表示制度の設計評価を受けた住宅の新築 | 性能評価の費用はかかるが、等級の第三者証明が手元に残る |
| 長期優良住宅 | 長期優良住宅建築等計画の認定、または長期使用構造等の確認を受けた住宅の新築 | 住宅ローン減税や補助金でも有利になる。認定の手間は別途必要 |
出典:長野市「建築基準法・建築物省エネ法の改正(令和7年4月1日施行)」/国土交通省 改正建築物省エネ法オンライン講座 Q&A
仕様基準には落とし穴もあります。Q&Aによれば、暖房設備が複数ある場合はすべての暖房設備が仕様基準に適合している必要があり、エアコンが適合していても床暖房は仕様基準の対象設備でないため不適合と判断されます。床暖房を入れたいなら、最初から省エネ計算を前提に設計を進めることになります。
一方で救済的な運用もあります。エアコンや給湯機を入居後に施主自身が設置する場合でも、申請図書に「入居後設置」と記載しておけば仕様基準を使えます。完了検査ではその設備が設置されていないことを確認する運用が想定されています。
見落としやすい注意点
- 外皮面積を用いない簡易計算法は2025年4月に廃止されました。低炭素認定や性能向上計画認定でも同様に使えません
- 当初は仕様基準で確認を受け、途中で計算基準に変更した場合は省エネ適判が新たに必要になります
- 仕様基準では、熱貫流率U値と熱抵抗値R値を部位ごとに使い分けることはできません
- 窓は原則すべてが基準を満たす必要があります。ただし床面積の2パーセント以下の小さな窓は熱貫流率の適合対象から除けます
- 省エネ基準に適合しない新築住宅は、原則として住宅ローン減税の対象外です
施主が今すぐ確認しておきたい6項目
制度が可否ではなく工程に効いてくる以上、施主側の備えも「基準を満たせるか」ではなく「スケジュールと見積もりに織り込めているか」に移ります。打ち合わせの場で次の6点を確認しておくと、着工直前の手戻りを避けられます。
確認チェックリスト
- ✓ この建物は新2号か新3号か(2階建てなら新2号)
- ✓ 省エネの評価方法は仕様基準か省エネ計算か
- ✓ 省エネ適判の手数料は見積もりに入っているか
- ✓ 確認申請の審査に何日を見込んだ工程表になっているか
- ✓ 床暖房を希望する場合、仕様基準が使えない前提で設計されているか
- ✓ 完了検査で必要になる工事写真・納入仕様書の準備を誰が担うか
最後の項目は意外と抜けやすい部分です。国土交通省は完了検査時の必要書類について、製品型番を確認するカタログや仕様書に加え、設備の設置状況や断熱構造の施工状況を確認する工事写真が必要になるとしています。断熱材は仕上げ後には確認できないため、施工の各段階で撮影する体制が現場に組み込まれているかを早めに確認しておくと安心です。
よくある質問
Q1. 省エネ基準に届かない設計だと、確認申請は下りないのですか。
省エネ基準は建築基準関係規定とみなされ、建築確認の審査の中で一体的に確認されます。したがって基準に適合しない設計のままでは確認済証は交付されません。ただし義務づけられている水準は断熱等性能等級4・一次エネルギー消費量等級4に相当する2016年基準で、仕様基準を使えば計算なしで適合を確認できます。設計を修正すれば通る性質のもので、土地や予算の条件で建築そのものが不可能になる仕組みではありません。
Q2. 平屋で200平方メートル以下なら、省エネ基準を守らなくてよいのですか。
いいえ。新3号建築物は省エネ適判の手続きが不要になるだけで、適合義務そのものは残ります。国土交通省のQ&Aも、200平方メートル未満の平屋建てなど新3号に該当して省エネ適判が不要となる場合でも、延べ床面積が10平方メートルを超える建築行為は省エネ基準適合義務の対象になると明記しています。手続きの省略と義務の免除は別物です。
Q3. 古い家を断熱リフォームするとき、省エネ基準への適合は必要ですか。
必要ありません。適合義務の対象は新築と増改築で、修繕・模様替えは大規模なものも含めて対象外です。用途変更だけの場合も、新築・増改築に該当しなければ対象外になります。ただし床面積が10平方メートルを超える増築を伴う場合は、その増築部分について省エネ基準への適合が求められます。
出典
- 国土交通省「【建築物省エネ法第10条】省エネ基準適合義務の対象拡大について」(mlit.go.jp)
- 国土交通省 改正建築物省エネ法オンライン講座「Q&A 建築物省エネ法関係」(shoenehou-online.mlit.go.jp)
- 長野市「建築基準法・建築物省エネ法の改正(令和7年4月1日施行)」2026年3月25日更新(city.nagano.nagano.jp)
※本記事は2026年8月20日時点で公開されている情報をもとに整理しています。個別の建築計画の判断は、建築地を所管する行政庁または省エネ適合性判定機関にご確認ください。
