帰宅の30分前にスマホでエアコン暖房を入れる。この「予熱」で増える電気代は、1回6.8円です。暖房期169日のあいだ毎日やっても年1,152円で、暖房の設定温度を21℃から20℃に下げたときの節約額(年1,645円)より小さい額にとどまります。
理由は、予熱が電気を「増やす」のではなく「前倒しする」行為だからです。東京電力が公表している機器別のアンペアでは、インバータエアコンの暖房は定常6.6Aに対して立ち上がりが20A。この3.0倍の山は、予熱してもしなくても必ず一度は通ります。増えるのは、留守のあいだ室温を保つための運転だけです。
この記事では、公表値だけを使って予熱の純増分を分解し、得になる家とならない家の条件、そしてスマートリモコン本体の電気代という見落としがちな項目まで整理します。
この記事の要点
- 30分の予熱そのものは1回17.1円かかるが、そのうち10.3円は帰宅後に発生していたはずの立ち上がり分
- 純粋に増えるのは残り20分の維持運転で1回6.8円、暖房期169日で年1,152円
- 断熱等級が高い家ほど予熱の効きが長持ちし、維持運転が少なくて済む
- スマートリモコン本体の消費電力は主要メーカーが非公表。年272円から2,716円まで10倍の幅がある
- 「快適さを買う」支出としては小さいが、切り忘れると1時間20.5円で積み上がる
予熱で増えるのは「留守のあいだの維持運転」だけ
帰宅前に暖房を入れると電気代が増える、と考えるのは半分だけ正しい見方です。冷え切った部屋を設定温度まで持ち上げる仕事量は、いつ始めても変わりません。予熱はその仕事を30分早く始めるだけで、仕事そのものを増やしてはいないからです。
増えるのは、設定温度に到達したあと、あなたが帰宅するまでの時間に室温を保つための運転です。ここだけが「予熱しなければ発生しなかった消費」にあたります。したがって計算すべきは30分ぶん全部ではなく、立ち上がりが終わったあとの残り時間だけです。
立ち上がりは定常の3.0倍という公表値
東京電力エナジーパートナーは、契約アンペアを選ぶ目安として機器ごとのアンペアを公表しています。インバータエアコン(おもに8畳用)は暖房の定常が6.6Aで、立ち上がり時が20A。冷房は5.8Aに対して14Aです。暖房のほうが倍率が高く、3.0倍に達します。
30分の予熱で本当に増える額は1回6.8円
立ち上がりに10分、そこから設定温度を保つ定常運転に20分という配分で、30分の予熱を分解します。単価は新電力料金目安単価の31円/kWh(税込)を使いました。
| 内訳 | 消費電力 | 時間 | 電力量 | 金額 | 予熱による純増か |
|---|---|---|---|---|---|
| 立ち上がり | 2,000W | 10分 | 0.333kWh | 10.3円 | いいえ(前倒し) |
| 留守中の維持運転 | 660W | 20分 | 0.220kWh | 6.8円 | はい |
| 30分の予熱 合計 | – | 30分 | 0.553kWh | 17.1円 | うち6.8円が純増 |
暖房期を169日とすると、毎日1回の予熱で年1,152円。1か月あたり約192円です。予熱を「電気代がかさむ贅沢」と考えている人が多いのですが、実額でみるとコンビニのコーヒー数杯ぶんに収まります。
設定温度を1℃下げるほうが金額は大きい
比較対象を置くと規模感がつかめます。資源エネルギー庁の省エネポータルサイトは、外気温6℃のときに2.2kWのエアコン暖房の設定温度を21℃から20℃にすると(1日9時間使用)、年間で53.08kWhの省エネになると示しています。31円/kWhで引き直すと年1,645円です。
つまり「予熱をやめる」よりも「設定温度を1℃下げる」ほうが、節約としては効率がいいという結論になります。快適さを削らずに済むぶん、後者のほうが続けやすい方法でもあります。
得になる家とならない家を分けるのは断熱性能
予熱の効きは、家がどれだけ熱を保てるかで変わります。断熱等級が高い家は室温が下がるまでの時間が長く、同じ30分の予熱でも維持運転の割合が小さくて済みます。逆に等級の低い家では、暖めたそばから逃げていくため維持運転が長く回ります。
図3 予熱を使う価値が高い条件
- 帰宅時刻が読める/30分前にセットしても無駄にならない。残業が多い人ほど空振りが増える
- 断熱等級が5以上/保温が効くので、予熱の到達点を長く維持できる
- 広いリビングを使う/立ち上がりに時間がかかる部屋ほど、前倒しの体感効果が大きい
- 朝の身支度が短い/出勤前の予熱は「無人時間ゼロ」なので純増もほぼゼロになる
- 逆に1人暮らしのワンルームは立ち上がりが数分で終わるため、予熱の恩恵が小さい
断熱等級によって暖房の運転をどう組み立てるべきかは、つけっぱなしの境界時間を扱った記事で詳しく計算しています。等級4なら30分、等級6なら約57分というのが、切るか続けるかの分かれ目でした。予熱の判断も同じ物差しで考えられます。
見落とされるスマートリモコン本体の電気代
遠隔操作には、エアコンが対応アプリを持っているか、赤外線を飛ばすスマートリモコンを置くかのどちらかが必要です。後者を選ぶ場合、本体そのものが24時間通電し続けます。
ところが主要メーカーは本体の消費電力を公表していません。公表があるのは付属アダプターの出力(5V2Aや5V1A)だけで、これは供給できる上限であって実際の消費ではありません。省エネ型製品情報サイトの対象機器でもないため、公的な値も存在しません。
図4 本体消費電力の上限と下限で見た年額
アダプター出力5V2A(10W)を上限とみなすと年87.6kWh・2,716円。実消費が1Wなら年8.76kWh・272円。同じ機器でも幅は10倍あります。
予熱の純増が年1,152円ですから、本体消費が大きい個体だと、リモコン本体のほうが予熱そのものより高くつく可能性すらあります。省エネ目的で買うものではない、と割り切るのが正解です。
遠隔操作で気をつける3つのこと
1つめは切り忘れです。暖房の定常660Wは1時間あたり20.5円。うっかり8時間つけっぱなしにすると164円で、予熱1回の24倍になります。オフのスケジュールもセットで組んでください。
2つめは、赤外線方式のスマートリモコンは「送信できたか」を確認できないことです。障害物や電池切れで届かなくても、アプリ上は成功したように見えます。室温を返すセンサー付きの機種を選ぶと、実際に暖まったかどうかを確かめられます。
3つめは無人運転そのもののリスクです。エアコンの吹き出し口の前に洗濯物やカーテンがかかっていないか、ペットがリモコンや配線に触れないか、外出前に一度見る習慣をつけてください。
空振りしたときのコストと、朝の予熱の違い
予熱の弱点は、帰宅が遅れたときにそのまま無人運転が伸びることです。30分の予定が1時間半になれば、維持運転は20分から80分に伸び、純増は6.8円から27.3円になります。週に2回それが起きるだけで、その2回ぶんだけで年1,310円(27.3円×2×24週)。毎日きちんと30分で済ませた場合の年1,152円を上回ってしまいます。
対策は単純で、スケジュールで自動的に入れるのではなく、駅に着いてから手で入れることです。遠隔操作の価値は「予約できること」ではなく「予定が変わったときに後から入れられること」にあります。タイマー予約との本質的な差はここで、電気代の面でもこの使い方のほうが有利になります。
いっぽう朝の予熱は事情が違います。起きる30分前にセットしても、あなたは同じ家の中にいて、そのまま暖房を使い続けます。無人時間がゼロなので純増もほぼゼロ。強いていえば、起床前の20分ぶんの維持運転(6.8円)が増えるだけで、寒い部屋で着替える時間が消えます。金額対効果でいえば、帰宅前より起床前のほうが割のいい使い方です。
時間帯別プランなら予熱の単価も変わる
ここまで31円/kWhの一律単価で計算してきましたが、契約しているプランが時間帯別なら話は変わります。たとえば東京ガスの時間帯別プランは深夜が27.77円、それ以外の時間帯は終日35.60円です(2026年9月3日閲覧)。帰宅前の予熱は夕方に行うので、35.60円のほうが適用されます。
この単価で計算し直すと、純増は1回7.8円、年1,323円。31円で計算したときより年171円増えます。逆に朝5時台の予熱が深夜区分に入るなら27.77円で、年1,033円まで下がります。同じ行動でも、契約しているプラン次第で年290円ほど動くということです。
金額としては小さいものの、エコキュートや蓄電池を持っていて時間帯別のプランを検討している家では、暖房の使い方まで含めて設計すると効きます。プランの選び方そのものは関東の電力会社おすすめ比較【2026年】にまとめました。
よくある質問
予熱は何分前が適切ですか?
立ち上がりに必要な時間ぶんだけ、が原則です。10畳前後のリビングで外気温6℃なら10分から15分が目安で、それを超える予熱はすべて維持運転になります。到達までの時間は機種と断熱性能で変わるので、一度在宅時に計ってみると自宅の適正値がわかります。
つけっぱなしにするのと、どちらが安いですか?
外出が長いなら切るほうが安く、短いならつけっぱなしのほうが安くなります。分かれ目は断熱等級によって変わり、等級4の家で約30分、等級6の家で約57分です。予熱は「切っておいて、帰る直前だけ入れ直す」という中間の運用にあたります。
スマートリモコンではなく、エアコン本体のアプリでもできますか?
無線LAN内蔵のエアコンなら本体アプリで操作できます。この場合はスマートリモコン本体の待機電力が発生しないため、上で示した年272円から2,716円の不確かさが消えます。買い替えの予定があるなら、無線LAN内蔵かどうかを確認しておくと後から追加機器を買わずに済みます。
出典・参考
- 東京電力エナジーパートナー「ご契約アンペアの選び方」(公式)2026年9月3日閲覧
- 資源エネルギー庁 省エネポータルサイト「無理のない省エネ節約・空調」(公式)2026年9月3日閲覧
- 東京電力エナジーパートナー「従量電灯B・C」(公式)2026年9月3日閲覧
- 単価は新電力料金目安単価31円/kWh(税込・公益社団法人全国家庭電気製品公正取引協議会)を使用
